先日、宝仙学園中高共学部四学年は京都・奈良・大阪を中心とした二泊三日の関西研修旅行に行ってきました。今回は二日目に行われた「能体験ワークショップ」について報告をします。
関西研修二日目も後半。「河村能舞台」についた私たちは、まず会場の独特な空気に飲まれました。正面に松が描かれた能舞台、歴史を感じる柱や床、天井が高く、二階建ての観客席。生徒達もその空気を感じてか、バス移動の疲れも忘れて真剣な表情をみせていました。
能楽普及協会理事でいらっしゃる講師の河村純子さんは能の歴史やお面、楽器について、実演をまじえて教えてくださるので、楽しく能について学ぶことができました。中でも各クラス代表による「すり足」体験は、生徒たちが実際に舞台に立つことで、能を身近なものとして感じることができたようです。
「すり足」は言葉の通り、踵を上げずに歩く歩行法です。クラス代表(各クラス2名)が舞台に上り、河村さん指導のもと「すり足」を体験させてもらいました。生徒たちはかなり苦戦していました。踵をつけながらお腹に気合を入れるというようにいくつかの動作を同時並行させることが難しかったようです。
「経験を積んで動作などがそれに似合ったものになること」を「板につく」と表現しますが、「すり足」がその語源であるとのことです。踵を上げず、床に足がしっかりとついていることから「板につく」という表現が生まれたそうです。
河村さんは最後に生徒たちに「変化を恐れず、あらゆることに挑戦すること」の大切さを教えて下さいました。600年能が続いてこられたのは絶えず変化してきたからであると河村さんはおっしゃいます。当たり前と言えば当たり前なことかもしれませんが、過去の実績に満足することなく、常に新しいものを求め続けることは容易ではありません。厳しい芸能の世界で、新しいものを追求し続けている河村さんの姿はとても印象的でした。
【河村純子さんのメッセージ】
「皆さんも変化をしていかなければなりません。信念という軸は変えずに変形していきなさい。自動ドアでは生きていけないのです。知らぬうちに目の前のドアが開く自動ドアではなく、自分から進んであらゆる扉の前に立ち、そのドアを自分で開けていかなければいけないのです。敷かれたレールに乗る時代ではありません。そのために、皆さんの場合は一生懸命に勉強すること。そして、何より足元を固めなくてはなりません。足元とは、家族や学校、友人などとの関係を大切にすること。」
【生徒の感想の一部を抜粋】
・女将さんの「信念という軸は変えずに変形しなさい」という言葉がとても重く感じた。人生経験がとても豊かな女将さんの心からの言葉はもっとダイレクトに心に届いて、涙がでそうになった。
・少し難しかったけれど、見ていて能の世界観に引き込まれていったし、もっと見たくなったので、昔からずっと続いている理由が分かった気がした。
・600年も時が経ち、世の中が激しく変わっていっても、人間の変わらない思いが描かれていることが能が愛されている理由なのだと考えると、自分たちは能を通して昔の人々とつながることができると思い、とても美しい芸術だと感じた。
・見ている人の想像力を豊かにふくらませて、それで何を考えるかは自由というところがとても興味深い。何度でも違う角度から楽しめると分かった。
・何も言われなくても全員が正座して礼するくらいいいお話が聞けた。
高校4学年担任 国語科 勝見 公紀