take advantage of ~ は受験生なら必ず知っているイディオム。「~を利用する、活用する」といった訳語が単語帳に載っているはずです。advantageという語はラテン語の abante (ab +ante)に由来しますが、「~の前方にある」という意味を表します。相手よりも一歩前にいる状態、つまり自分の「優位性」を表すことばです。そこから take advantage of ~ には「(ある状況の)優位性を利用する」という意味が生まれます。
例えばテニスで「アドバンテージ・サーバー」と言えばサーブする側がポイントで優位に立ち、ラグビーやサッカーで「アドバンテージ」といえば、反則が生じた際に反則を受けたチームが有利となる場合にプレーを続行し、罰則適用を保留することです。
今年の東大の問題で私が「東大らしさ」を感じた問題の一つが、このtake advantage of ~ を含んだ文の解釈問題でした。
出題は、関西に留学中のある女性のエッセイの一部です。彼女はある時、ボーイフレンドからサーモンピンクのレインコートとおそろいの帽子をプレゼントされます。「東京のお店でしか手に入らない (‘one-of-a-kind’)ものだそうだ」とは彼の弁でしたが、数日後に彼女は同じコートと帽子を梅田の量販店で見つけます。そのときの一言が、”It’s possible that Tokyo salesgirl took advantage of him.” です。 東大はこの箇所の内容を「具体的に説明せよ」というものです。
one-of-a-kind は、「唯一無二の」という意味のイディオムですが、「ここでしか手に入らない」といった意味であることは文脈から判断できます。では、店員の女の子が「’take advantage of him’ した可能性がある」とはどのような意味でしょう。単語帳の訳語通りに「彼を利用した」と日本語に置き換えただけではピンときません。ここでは 「店員に ‘one-of-a-kind’ だと言われたに違いない」という先ほどの文が利いています。「相手との優位性を利用した」わけですから、店員は「彼の無知につけこんだ」とか、「東京でしか手に入らないと言って、彼を言いくるめた」といった日本語が浮かんでくればよいわけです。
つまり東大はこの問題で2つのイディオムの訳語をただ問うているのではなく、文脈にあった相応しい日本語を求めているのです。(当然、状況を正しく読み取れていることが前提ですが)実は豊富な読書量や日常会話で使う日本語の語彙に裏打ちされた受験生の母国語のチカラが問われているのです。この問題が東大らしい、と述べた理由はそこにあります。
ときに丸暗記しただけの知識が正しい理解の妨げとなることがあります。
東大がイディオムを出題した、と大騒ぎして慌ててイディオムを覚えさせるような風潮を見るときに、それがいささか見当外れかと思うのです。
(入試問題分析チーム 右田邦雄)