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#54 TAKE A STAND

2020/9/26

先日のUSオープンテニスを制した大坂なおみ選手が毅然とBLM(Black Lives Matter)の支持を表明し続けたように、昨今アスリートが社会問題に声を上げる機会が増えています。しかしスポーツ界は長く政治的中立性を重視し、このような意思表示はタブーとされてきました。

毎年5年生が訪れるアメリカ西海岸・シリコンバレーにはスタンフォード大をはじめ、いくつもの大学がありますが、その一つがサンノゼ州立大学です。この大学のキャンパスはオリンピックイヤーだった今年、もしアメリカ研修が行われていたら、生徒たちを連れて行きたかった場所なのです。

時は1968年、メキシコ五輪。陸上男子200m決勝で二人のランナーが金・銅メダルを分け合いました。トミー・スミスとジョン・カーロス。ともに黒人のアメリカ人選手でした。1960年代後半、激しさを増す公民権運動。アメリカ国内の黒人差別に抗議するため、二人は表彰台の上で母国の国歌が流れ、星条旗が掲揚されるなか、うつむき、拳を高く突き上げたのです。The Black Power Saluteと呼ばれるパフォーマンスです。

会場からはブーイングが起こり、IOCもこの行為を著しくオリンピック精神に反するものとし、二人を選手村から即刻追放する処分を行いました。このとき二人とともに表彰台に上っていた銀メダリストのオーストラリア選手ピーター・ノーマンは白人ながらも二人の行動を支持。しかし帰国後、黒人に荷担したとして周囲から激しいバッシングを受けたのです。オーストラリアでも白豪主義の影響が色濃く残る時代だったのです。

結果的に三人のアスリートは選手生命を絶たれ、職場を解雇されたり、家族までもが脅迫されるといった苦難に見舞われます。アメリカで二人の名誉が回復されるまでには実に37年の歳月を要しました。2005年、差別に屈せず闘った勇気と信念を讃え、ふたりの母校であるサンノゼ州立大はキャンパス中央に、拳を上げ表彰台に立つ二人の銅像を建てたのです。除幕式には友情を深めていたピーター・ノーマンも駆けつけたそうです。そのノーマンはオリンピック後、競技生活を続けたものの、精神を病み、翌2006年に死去。葬儀には今度はアメリカからスミスとカーロスが参列し、ノーマンの棺を担ぎました。(ノーマンの名誉が回復されたのは彼の死後であり、彼の物語は映画化され、また故郷メルボルンのスタジアムに銅像が建てられたのは去年のことです。)

サンノゼのキャンパスの表彰台にはスミスとカーロスの像が並びますが、2位の場所にはピーター・ノーマンの像がありません。

ノーマン自身がそれを固辞したと伝わっています。代わりに彼が立つべき場所には銘板が飾られています。これこそが5年生に見せたかったものなのです。そこには彼の意思がこう刻まれています。

『ここに立つのはあなただ』(Take A Stand)

 (英語科・右田邦雄)                                                                                                                            

 

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