生徒の英作文の添削をしていて頭を悩ませるのが、主語と人称の問題です。先日も6年生のA君の書いた英文にこんな例がありました。Everyone has his own way of enjoying his trips.(旅の楽しみ方は人それぞれである)という文です。これ自体は文法的には正しいのですが、主語のeveryoneが単数扱いされるため、それをうける代名詞が問題になるのです。私が学生の頃はhisという表現もよく見かけましたが、21世紀にはいる頃からいわゆるPC (politically correct)言語の関係で、男性形のhisだけを使うのはけしからん、とされ、his or her、とかhis/herという表記が登場しました。しかし、それでも収まらず、hisがherより先なのはもっとけしからん、という理由で her or his という言い方や、同様にshe or heやs/heという表記も生まれました。
昨年の9月、アメリカの大手辞書出版社のMerriam-Websterはその年を代表する新語 (2019 Word of the Year) に単数のtheyを選びました。これは上述の煩雑さを解消するために、この10年ほどで定着した、theyを単数の代名詞として用いる表現を標準用法と認めたものでした。A君の文であれば、Everyone has their way of enjoying their trips. とすっきり表現できるわけです。この用法はsingular theyと呼ばれ、すでに2015年にはThe Washington Post紙が正式に容認しており、報道記事のバイブル的存在であるThe AP Stylebookにも2017年度版より採用されています。ことばが時代とともに変化することを示す好例かもしれません。思えば、今では単数・複数両方で使われるyouもかつては単数形の用法しかありませんでした。(複数形はthou) theyも時代とともにその用法が変化しています。
しかし受験生が受けた模試の返却された答案を見ると、このようなsingular theyの用法は減点対象とされ、受験英語では避けた方が無難なのです。頭を悩ませる、と書いたのはその点であり、すでに許容された用法を堂々と教えられないというジレンマがあるのです。
さて、今年のWord for the Yearにはどんな語が入っているかと調べてみると、やはりコロナ関連の語が占めています。Covid-19それ自体やWFH (work from home)といった略語も登場しています。そんな世相の中、6年生はいよいよ受験に向けてスパートをかけています。A君の添削もいまはメールも使って、WFHを活用しています。 (英語科 右田邦雄)