昨春、渋谷先生とアイルランドを訪れた際に最も印象的だった場所のひとつがダブリンにある、この国最古の国立大学・トリニティ・カレッジです。ここには世界一美しいと言われる書物、聖書の写本である「ケルズの書」を有する図書館があり、その内部の荘厳さには思わず息を吞みました。
図書館は知のシンボルであると同時に知のオアシスでもあります。
秋田県にある国際教養大の図書館は、その設計の美しさだけでなく学生や教職員がいつでも利用できる24時間眠らない、「日本一の大学図書館」として知られています。
どんな小さな町にも図書館があるように、どんな学校にも図書質があります。図書館や図書室は知の集積所として文化の一端を担っているのです。そんな図書館が街や学校から無くなってしまったら、一体どうなるでしょう。
かつてドイツ軍によって両大戦中、二度まで放火炎上し、破壊されたのがベルギーのルーヴェンという町にある大学図書館です。なぜドイツ軍が執拗に図書館を標的にしたかは、『図書館炎上–二つの世界大戦とルーヴァン大学図書館』(ヴォルフガング・シヴェルブシュ著)という本に詳しいのですが、図書館が市民の精神文化の支柱であったこととは無関係ではありません。
1986年4月29日白昼、ロサンゼルス中央図書館で大火災が発生しました。40万冊を焼き、70万冊が損傷したと言われます。出火の原因は放火でしたが、逮捕された青年の動機は何だったのか。『炎の中の図書館 110万冊を焼いた大火』(スーザン・オーリアン著)は昨秋に出版されたノンフィクションですが、図書館という「知の神殿」の果たしてきた役割とは何かを考えさせてくれます。
同様のテーマでは古典とも言える『華氏451度』(レイ・ブラッドベリ著)があります。70年近く前に書かれたSF作品で、「本」が禁止された世界を描いています。本を焼き払うことが仕事の焚書官の主人公がふとしたことから「書物」を手に取り、人生が大きく変わっていく様が描かれています。(私も高校時代に英語の授業で泣きながら原書を読まされとときにはそこまで理解できませんでしたが)いま読むと痛烈な現代文明への諷刺ととれます。
「本の価値とは何か?」 この問に対して明確に答えた人がいます。
少年時代、マーク・トウェインの『トム・ソーヤの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』に夢中になり、ついには自分の作ったテーマパークにまでその世界観を再現させた、ウォルト・ディズニーです。
『宝島の海賊たちが盗んだ財宝よりも、本には多くの宝が眠っている。そして、何よりも、その宝を毎日味わうことができるのだ。』 (”There is more treasure in books than in all the pirates’ loot on Treasure Island and best of all, you can enjoy these riches every day of your life.”)
読め、読め、どんどん本を読め。そしてどんどん宝を見つけることだ。
(共学部高等部・右田邦雄)