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『筆まかせ』

2017/7/13

本校では「読書指導」の一環として、図書委員の生徒が書いた記事を中心に編集した図書便りを定期的に発行しています。今年度のタイトルは『君の本棚』というタイトルです。このタイトルも図書委員の生徒で考えました。

その一方で、先生方による、本にまつわるエッセイを編集した『筆まかせ』というものも発行しています。生徒に本を読んでほしいのなら、まずは大人から、というわけです。編集担当の私が個人的に考えているのは、先生方に「本の紹介」をしてほしいわけではなく、「本にまつわるその人のストーリー」が知りたいということです。ですから、「つまらなかった」という記事でもいいのだと思っています。「一度読んでみてつまらなくて挫折したけれど、大人になってもう一度読んでみた」というストーリーを、生徒に読んでほしい、生徒にも体験してほしいと思っているのです。この『筆まかせ』、生徒はもちろん、保護者の方にも読んでほしい。大人が本を読むようになれば、必ずこどもたちも読むようになると確信しています。(国語科 金子忠央)

 

(第2号より 一部抜粋)

小島信夫『アメリカン・スクール』(新潮文庫)

小島信夫が書く小説はほんとうに変わったものが多い。読むといつも「ふざけているのではないか」と言いたくなるような作品ばかりなのである。

例えば、「馬」という短編。

三十五歳のサラリーマン「僕」は妻と二人で暮らしている。ある日、突然、「僕」の妻は三年前に新築したばかりの家と同じ敷地に、新しい家を建て始める。しかも、その新しい家の中にはなぜか「馬」がいる。馬と同居しているわけである。そして、「僕」の妻は「僕」そっちのけで馬といい感じになるのである。

「馬」はどこからやってきたのか?なぜ、奥さんは馬を家に入れたのか?など、読んでいるうちに疑問が次々と湧いてくる不思議な世界。詳しくは作品を読んでほしいいのだが、ここまで読んだだけでもその可笑しさは伝わってくると思う。

小島の短編はカフカのような不条理さを持ちながらも、独特のユーモアを持っている。読者からすれば、あり得ない非現実的なことであっても主人公は真剣に問題を解決させようと苦闘する。設定で読者をひきつけているように見せながら、扱っている問題は結構現代批判になっていたりもする。

『アメリカン・スクール』という短編集を読んだ読者は、「感動」などという言葉では片づけられない読書体験をすることになる。読後に湧く疑問とともに、いつも頭の隅には『アメリカン・スクール』のことがあるというような、そんな不思議な体験になるだろう。           

(勝見公紀先生)

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