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第26回 理数インターグローバル 「『神話』に立ち向かうには」

2017/5/18

 高校3年生の授業というと受験勉強一色のように思われるかも知れませんが、必ずしもそうではありません。今年の高3英語のクラスでは、物語を英語の原文で読んで楽しもう、という呑気な授業を行っています。いま一緒に読んでいるストーリーはPaul Tibbets(ポール・ティベッツ)という人物のインタビューを基にしたノンフィクションで、書き手は日本でも人気の高いボブ・グリーンという作家です。ポール・ティベッツといっても多くの人は聞いたことのない名前でしょう。しかし彼が乗った戦闘機の名前を聞けば、思い当たる方も多いのではないでしょうか。その名も「エノラ・ゲイ」。そう、広島に原爆を投下したB29爆撃機の名前です。ティベッツはエノラ・ゲイの機長として、人類初の原子力爆弾を投下した人物として歴史に名を刻みました。戦後、精神を病んで自殺をしたなどの噂が流布しましたが、このインタビューを読むとそれらが全くの誤りだったことが分かります。

 

 戦後70有余年の時間を経て、昨年には現職の米大統領が原爆ドームを訪れるという画期的な出来事がありましたが、こと原爆投下の是非に関する日米両国民の意識の溝は一向に埋まりません。原爆投下によって終戦を早められ、結果的に犠牲者を増やすことなく済んだという「原爆神話」の考えを持つアメリカ国民は少なくありません。そんな彼らに対し、我々日本人の訴えは、ときに被害者感情のむき出しとしか映らない現実が存在します。ティベッツの言葉にはまさにそのようなアメリカ国民の「本音」をストレートに伝えてくれます。と同時に、ティベッツ自身があの体験をどのように考え、そこから何を今の若者たちに伝えようとしているか、という点は示唆に富み、一読の価値があります。

 

コミュニケーションにおいて、相互の溝を埋める最初の、そして唯一の手段は相手の道理やその根底にある考え方を知ることです。それなくして双方が自分の立場からのみ発信を繰り返しても、相手には届きません。次世代を担う若者たちが、自分たちとは異なった考え方に触れることは決して無駄ではないと思うのです。そこから新しい日米関係や、グローバル社会を生き抜くヒントを得てほしいと思うのです。

 私が高3生に伝えられることは限られています。もちろん受験勉強のお手伝いはさせてもらいますが、授業を通してこんなメッセージを伝えることができる環境を私は楽しく感じるのです。

      

共学部高等部教頭 右田邦雄

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