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校長blog ジェネレーションXYZ 第11回「筆まかせ」

2022/2/15

本を読む。
生徒に失ってほしくない習慣であれば、自分たちは、なにを読んで、どう感じたか。
それを公表して、生徒にとって、本や教職員への垣根を低めたい。
そして、図書館に、借りに来てほしい。
わたしたちに、その思いを語ってほしい。
そういう思いも含めて、始めてくれたであろうと、わたしは感謝している、教職員のブックレビュー「筆まかせ」。
発案者兼編集者は、絶やすことなく、毎学期末、発行しています。

当事者は、打診すると、手間がかかるタイプなので、わたしが勝手に、発信しました。
罪滅ぼしに、恥ずかしながら、わたしのレビューを公表します。
本を読む。文章を書く。
こんな感じでもいいんじゃないの。
という意味です。
ご寛恕ください。

                                校長  富士晴英


【第1回 筆任せ ブックレビュー】

岡田幸一「リモート授業と対面授業が並立する状況下での『書くこと』の指導」(日本国語教育学会『月刊 国語教育研究』590号 2021年6月)

 現在中学1年生の学年主任を務めていらっしゃる岡田先生の論文です。昨年度のコロナ禍で試行錯誤された2種類の授業形態で追究された「書く意欲を育て、書き方を学ばせる試み」を紹介されています。対象は、中学2年生。一つは、「林檎」と「赤」という言葉を使わずに、「林檎」を写生するように描写するという試み。生徒作品も掲載されています。もう一つは、授業での読書プレゼンで級友が発表した本の感想文を書いてみるという試み。本をきっかけに、共感しあう空間は、「宝仙文学」と題した文集にもなったとのこと。この研究論文とともに、図書室でも読めるようにしましょう。

                                   富士晴英

【第2回 筆任せ ブックレビュー】

今枝吉郎『ブッダが説いた幸せな生き方』(岩波新書 2021年)

 「仏教」には、ブッダが教えたこと、ブッダとは何かということのほかに、ブッダになる道という意味も含まれます。これはまさに、ほかの宗教にはない、仏教固有の本質的特徴です。ブッダとは、「目覚めた人」という意味であり、その道とは、苦しみそのものをなくすのではなく、それらを超越するという方法です。これは、哲学的に聞こえますが、合理的でもあると思います。この本は、仏教がその原点において、妄信的でも排他的でもなく、実践的で寛容的であったことを、平易に語っています。
 なお、この本でも紹介されている一切衆生悉有仏性(いっさいしゅじょうしつうぶっしょう)という大乗仏教の理念は、教育の可能性を肯定する、わたしにとっては、勇気を与えてくれる言葉です。

                                  富士晴英

【第3回 筆まかせ ブックレビュー】

池上俊一『ヨーロッパ史入門~原型から近代への胎動』(岩波ジュニア新書 2021年)

ヨーロッパとは、「各時代において、それ以前から遺贈された諸要素を使って、そのつど創られていく現在進行形の構成体であり統一体」。ヨーロッパ史とは、「いつも多様性を内包し、個性的なプレーヤーがぶつかり合いながらエネルギーを蓄積して、その歴史が推進されてきた」。まえがきで書かれた言葉です。こういう表現は、専門家というよりも大家でなくてはできないと感じます。俯瞰する視野と主体的な視点を感じてみたい読者は、手に取ってみてください。もちろん、知識が不足してわからない部分は、誰にでもどこにでもある本だと思います。それでも、辛抱強く接していれば、はっとする表現に、間違いなく、そして何度も、出会います。私にとっては、それらはたとえば、「辺境こそが、異なるものの混交攪拌する新たな文化の発酵する実験場」・「個人意識や約定における相手への信頼感を前提としないと封建制度は考えられず、それは極端に言えば、人間の等質性、本質的平等性を前提としている」・「都市こそがヨーロッパを特徴づける新しい法、道徳性と心性が培われ、新たな人間関係が結ばれる坩堝」・「中世末は、光と影が混在し、相手を際立て合っている、そんな時代でした」・「いわば中世以降のヨーロッパ精神の成熟あるいは爛熟の結果がバロック芸術で、ヨーロッパ人の情熱や空想が最大限に発揮されている」等です。本書の続編の副題は、「市民革命から現代へ」です。おそらくは現在の諸事象をどこから見返せばいいのかと思ったとき、繰り返し手に取る本になるのではないかと思います。      

                                  富士晴英 

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