中学・高校入試が終わりました。入試期間中は教科の採点以外に面接官を務めるという仕事があります。本校ではグローバル入試やプレゼン入試といったAO型入試を多く行っていますから、その度に多くの受験生と面接をします。
どんな質問をするかは基本、それぞれの面接官に任せられていますから、必ず聞かなくてはいけない質問というのはありません。その代わり、私が必ず聞かない質問、というのはあります。それは本校への志望理由です。
「なぜ本校を選びましたか。」
これぞどんな入試面接の鉄板の質問ですし、これを聞かなきゃマズイでしょ、と思われるかもしれません。しかし、だからこそ聞けないんです。
決まりきった質問には決まりきった答えがあります。受験生も当然、想定した質問をされると、待ってましたとばかりに用意してきた答えを「読み上げて」くれます。しかし、それを聞いている私は、聞こえてくる内容は理解できるのですが、聴きながら虚しくなり徒労感を覚えます。それでは一生懸命準備をしてくれた受験生に申し訳ないので、そういう質問はゼッタイ聞かないようにしています。(もちろんこれは面接官によって違いますよ!)
なぜ徒労感を覚えるかといえば、それは聴き手が自分でなくてもいいからです。おそらく試験官が違っても、その受験生は頭の中にインプットしてきたことを同様に吐き出すでしょう。でも、これはコミュニケーションのあるべき姿とは少し違う気がします。その証拠に、面接をしていて猛烈に楽しい受験生がいます。それは想定していないことをその場で話してくれる生徒です。
先日もハワイからの帰国したばかりの受験生と面接をしているとき、「ところで東京の冬は寒くないかい?」と話を振ってみたところ、その生徒の表情が和らぎました。「はい、そうなんですよ。」
そこから彼は、これまでの現地での生活ぶりやコロナ禍のなかで翻弄された家族の労苦までを滔々と語ってくれました。それはそれは聞き応えのあるものでした。
自分という質問者がいて、だからこの質問が生まれる。そしてそれに唯一応えられる相手がいる。そうやって初めて成り立つ場であることがコミュニケーションのあるべき姿ではないか、と思うのです。
今年も何人も愉しい受験生と出会うことができました。その出会いに感謝し、皆さんの入学を楽しみに待っています。
(入試面接官代表・右田邦雄)