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#63 Will AI take over?

2020/12/7

 前回は大津由紀雄先生の講演のエッセンスをお届けしました。(未読の方はぜひ#62を先にお読みください。)今回はそのスピンオフです。

 講演会の最後の質疑応答で、つぎのような質問が寄せられました。

 Q 自動翻訳の性能が日進月歩で、こどもも英語は勉強しなくても必要な時は翻訳機が用を足してくれると言い放ちます。どのように英語学習の動機づけをしたものでしょうか。

 これには会場からも失笑が漏れましたが、笑い事ではありません。われわれ英語教員もこの問題には真剣に向き合わなければなりません。それほど機械翻訳の技術は高まっています。大津先生は次のような例を示されました。

 『新型コロナウィルスのおかげで時短営業を余儀なくされた飲食店の多くは40万円の補償金をもらっても倒産寸前です。』という日本文をGoogle翻訳に入力すると、瞬時に次のような英文を示してくれます。

 “Many restaurants that have been forced to open in shorter hours due to the new Corona virus are on the verge of bankruptcy even with a compensation of 400,000 yen.”

 これには正直、私もびっくりしました。大津先生も「これ、かなりいけますよね?」と仰っていましたが、十分原文の意を伝えています。とくに驚くのは、「補償金をもらっても」という日本語を、”with “ を使って処理しているところです。英作文を学んでいる高校生でも、こうすんなりはいきません。

 機械翻訳が瞬時にこのような「離れ業」をやってのけるのは、「コーパス」の成せる技です。これは、本、雑誌、映画、テレビなどのさまざまな媒体で使わる、文字化された話し言葉や書き言葉を大量に集めたビックデータのことで、どんな名詞がどんな動詞と結びついて使われることが多いか、といった膨大な量の使用例から適切な表現をAIが探し出してくれます。これはとても人間が太刀打ちできる領域ではありませんし、このレベルの操作を1台3万円以下の翻訳機がやってのけるのですから、「だったら自分で勉強するより、性能のいい翻訳機を1台もっていれば十分」と中・高生が考えるのも無理もないかもしれませんね。私が冒頭に「笑い事ではない」と言ったのは、まさにその点です。英語学習者だけでなく、世間一般的にもこのような考え方が広まってきているように感じます。

 しかし大津先生は続けます。『もし英語学習の目的が英語で自分の言いたいことを伝えるためだけであったら、それで用が足りるかもしれない。しかし、ことばの世界を徘徊するだけの英語教育では意味がない。』ことばへの気付きであったり、発見を通して言語に興味を持つこと、機械翻訳とは異質の英語運用力(論理的思考力や文章構成力)を身につけること、そして、英語と日本語という2つの窓からことばを把握し、英語を知ることによって母語を知ることこそが英語を学ぶ目的にならなくてはいけない、と力説されました。

 『とは言うものの、これは大人向けの説明。子どもたちにはこれを「翻訳」して伝えてあげなくてはなりませんね。』という宿題もいただきました。この宿題はわれわれ英語教員や国語科教員と知恵を出し合って考えていかなくてはならないと考えます。

 大津先生からは、早速講演後に「子どもたちにとってのことば」をテーマに、生徒や保護者、先生方を巻き込んだプロジェクトのご提案もいただいております。何とも魅力的な企画です。早速検討を始め、実現の暁には保護者の皆さんにもお声がけをさせていただこうと思います。 (英語科・右田邦雄)

 

 

 

 

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