ソーシャルディスタンス。実践されているかは別として、聞かない日はないくらいこの言葉はわれわれの生活に定着しました。校内にも目に付くところにポスターを掲示しています。よく見ると英語のポスターには Keep Social Distancing となっています。’social distance’と表記されているものは稀です。そのことに気づいた敏感な生徒が質問に来たので、つい雑談に花が咲きました。
英語でsocial distanceといえば、もともとは社会的格差からくるギャップを指す言葉です。富む者とそうでない者、外国人住民の生活困難、特定の人たちへの差別や偏見。インターネットなどの情報通信技術を使える人と使えない人との間に生じるデジタルディバイド(情報格差)などが含まれます。Keep social distance. と言うと、それらを奨励するように聞こえてしまうため、感染予防のために相手との物理手距離を保とう、という意味ではSocial Distancingと動名詞形を用いるようです。日本語にはその習慣はないために、厳密には区別されていません。カタカナ語がそのまま母語の意味をあらわすとは限らない例です。
感染予防では「三密」を避ける、という言い方も定着しました。英語でも同様な言い方をしますが、こちらはAvoid the Three Csのように、3つのCと表現されます。授業でもクイズを出したのですが、closed spaces(密閉した空間)、crowded places(密集した場所)までは分かっても、最後の一つが難しかったようです。(c )-contact settings(密接した状況)。お分かりになりますか?(ここには ‘close’ という形容詞が入ります。動詞のcloseとは発音が異なるので注意が必要です。)
日英語ともに3つの同種の語を繰り返して標語を作るというのは珍しくはありません。「読み、書き、そろばん」と言っても今の生徒には通じませんでしたが、英語では3Rs(Reading, Writing, Arithmetic)です。(最後のarithmeticは四則計算のことです)環境問題の標語も同じ3Rsが使われますが、こちらはご存知のとおりReuse(再利用)、Reduce(ゴミ削減)、Recycle(リサイクル)のことです。
CMでは響きがよく、覚えやすい3語フレーズがよく使われます。♪「セブン・イレブン・いい気分」、「この木、何の木、気になる木」… メロディーが聞こえてきますね。
アメリカのCMでは昔から’three-word-slogan’というマーケティング用語があり、キャッチフレーズは3語で短くまとめる、という傾向があります。 ’Just Do It’, ‘Finger Lickin’ Good’(ケンタッキーFC)、’I’m Loving It’ … などなど。オバマ前大統領の’Yes We Can‘もその類です。今年のアメリカ大統領選の両候補のスローガンは、トランプ陣営が ‘Keep America Great’ なのに対し、バイデン候補は ‘Build Back Better’(立て直しだ)と、これまた’three-word-slogan’の連発です。
とまあ、こんな脱線話につきあってくれる生徒はありがたいものです。
(英語科・右田邦雄)