Don’t Judge A Book By Its Cover.(本を表紙で判断してはいけない=英語の諺)
2000年にデンマークのコペンハーゲンの野外フェス会場で始まったHuman Library(人間図書館)という取り組みが、いまや日本を含め、世界90カ国以上に拡がっています。図書館の書物が様々な物語を語ってくれるように、Human Library (HL)では書物に代わってヒトがいろいろなストーリーを語ってくれるのです。本を借りるように、HLでは一定時間ヒトを「借りる」ことができ、1対1でその人のストーリーを聴き、また質問することができます。
「元マフィア、移民、性転換者…。市民が普段近づきにくいと感じている人たちを図書館に招き、話を聴きたい入館者に「本」として貸し出す。「生きている図書館」と名付けられた活動が欧州から世界各地に広がっている。社会の偏見を少しでも減らす試みだ。」(2008年6/28 朝日新聞朝刊より)
もともとこの働きは若者たちの中にあるステレオタイプ(固定概念)を打破し、移民や難民といったマイノリティの人たちへの暴力行為や差別を減らすためのものでした。固定概念とは自分の対峙する相手のことを知らずとも、おおよその予測を立てるのに役立つ心理メカニズムです。しかしそれは時に安易な判断を生み、負の感情と結びつくことがあります。「移民が自分たちの仕事を奪っている」、「自分たちが貧しいのは移民のせいだ」という偏見が当時の欧州の若者を敵対行為へと駆り立てていたのです。いくら頭で理解していても、こうした偏見からくる違和感や恐怖感は知識や理屈だけでは克服することはできません。目の前にいる一人ひとりは自分の思っていたイメージとは違う「個人」なんだ、という揺さぶられる体験が必要なのです。HLの創始者であるアバゲール兄弟の兄、ロニーのことばです。
「自分と離れたところにいる人たちには、いともたやすく偏見を持ってしまうことがあるが、個人的な接触のある人について偏見を持ち続けることは少ない。私は移民は嫌いだけど、私の学校のモハンマドはいい子だよ、だって私は彼を知っているもの、といった類いの話を私はしばしば耳にする。」
HLが狙いとするのは、このステレオタイプの低減効果です。そしてこのような取り組みはぜひ私たちの学校でも行っていきたいと思うのです。まずはいろいろな物語を持った人に来ていただき、生徒たちとストーリーを共有してもらいたいのです。そして生徒たちを通し、われわれ教員や保護者の偏見が和らいでいくとこを期待したいのです。
「人は誰もが特別であって、自分の人生は自分にしか語れない。「マイノリティ」を貸し出すのではなく、語りたい人が自分の意志で「自分の物語」を貸し出すのである。大切なのは、二人が自分の物語を本音で語り、誠実な関心を持って受け止め、語り返すという時間がもたれることだ。」 (「情報の科学と技術」2018年68巻1号『ヒューマンライブライーという図書館』横田雅弘より)
共学部高等部教頭 右田邦雄