本日、3月3日は、毎年、女子部の卒業式でもあります。
卒業をお祝いし、毎年、会場となる宝仙ホール入り口に、お雛様が飾り付けられます。
さて、今回は、女子部文集『あゆみ』第66号に寄稿した文章中から、レビューの部分をお知らせします。
2017年度第1回ブックレビュー
伊藤亜紗「目の見えない人は世界をどう見ているのか」(光文社新書 2015年)
タイトルを目にした時、やや緊張感があった。いわゆる健常者が障害を持つ方の認識のあり方をどのように理解できるのだろうかと。でも、そうした距離のとり方から、著者が一番まぬがれていた。むしろ見えない人の「見方」の興味深さを、個別具体的に、いとおしく語る筆者の語りには、大いに共感した。そして、見えない方の世界の「見方」に、引き込まれた。誤解を恐れず、面白かったといえる本でした。
2017年度第2回ブックレビュー
柏木惠子「おとなが育つ条件」(岩波新書 2013年)
育つのは、こどもだけではない。おとなには、おとなの育ちかたがある。一番、印象に残ったのは、自らを、規範意識から解放すること。つまり、自分で考えることである。それは、おとなが、こどもに、大切なこととして、話していることである。その大切なことを、おとなが実践してみようという話である。こどもにだけ大切な規範というものはない。と、感じている背中を押してくれる本でした。
2017年度第3回ブックレビュー
崔善愛「ショパン」(岩波ジュニア新書 2010年)
マウリツィオ・ポリーニでショパンのポロネーズを聴いたのは30歳を過ぎていました。CDで、ですが。以来、言葉にできないこの曲と演奏の魅力を、不思議に思っていました。
なにせ、ポリーニは、ポピュラーミュージックに対して、「イマジネーションが貧弱だと思います。クラシックの方が聞いていて面白い」と言ったらしい。怖いけれども、もっと話を聞いてみたくなります。そして、ショパンは、「音による思想の表現。音によるわれわれの感情の表出。人間の定かならぬ言葉、それが音である。定かならぬ言葉、音楽。」という草稿を、死の床で残したとのこと。この本で知りました。不思議な魅力を、これからも聴いていきたいと思います。
2017年度第4回ブックレビュー
井上ひさし「宮沢賢治に聞く」(文春文庫 1995年)
昨年は、井上ひさし「イーハトーボの劇列車」(新潮文庫 1980年)をレビューしました。今年は、こちら。著者が、霊媒師になって、宮沢賢治にインタビューするという荒唐無稽な設定です。好きが高じると、病に至るということでしょうか。それは、インタビュー中の、著者の発問の前振りからも、察することができます。「ねえ、賢治先生。あなたについての研究はずいぶん進み、そして深まってもおります。あなたの弱さ、あなたの度をこしたハシャギッぷり、あなたのつめたさ、それはもうだれでも知っています。そしてそれを充分に知った上で、みんながあなたをよりいっそう愛しはじめているのです。」聞かれるほうは、困っちゃうよね。
2017年度第5回ブックレビュー
エラ・フランシス・サンダース「翻訳できない世界のことば」(創元社 2016年)
私のお気に入りを、二つ、紹介します。「ubuntu(ウブントゥ)」(ズールー語)「あなたの中に私は私の価値を見出し、私の中にあなたはあなたの価値を見出す」。「poronkuseruma(ポロンクセルマ)」(フィンランド語)「トナカイが休憩なしで、疲れず移動できる距離」。
ちなみに、約7.5kmだそうです。
翻訳しているじゃないか。という突っ込みもありでしょうが…。その土地のひとには、説明なしに共有されているのに、ビジターに説明するとなると、どこから話したものだか戸惑いやためらいがよぎることば。そういうことばたち。だと思います。
ことばとは、固有性に裏付けられながら普遍性を指向し、普遍性を指向しつつも固有性がはがれないものなのでしょうか。